「親なき後」を考える
成年後見制度は、認知症高齢者や精神障害者、知的障害者の方で、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況、著しく不十分、不十分な方が対象です。
認知症の高齢者が170万人、精神障害者は250万人、知的障害者も50万人といわれいています。平成18年度終了時点で成年後見制度の累計利用者数は約12万人ですので、470万人分の12万人ですから利用率はわずか2.5%になります。法制化時点での利用者数は100万人以上と想定されていますので、まだ利用者が少ないのが現状です。そこには様々な問題があると思われます。
知的障害者の成年後見の原理(自己決定と保護から新たな関係の構築)著者 細川瑞子 発行:信山社
「スタートの機械的平等さえ準備すれば良しとして、結果の不平等や良し悪しを問わない、それが格差社会を招き、生き難さがじわじわと社会に広がってくる。このような社 会で、はたして福祉が、それを必要とする社会的弱者に届くのであろうか。どのような社会が望ましいのか、その基本的な価値を方向が明確になったいない現代社会。そんな 中で、私たちは糸の切れた凧のような状態で浮かんでいる。」と現在社会を認識しています。
「このような不安が広がる社会において、知的障害者が安心して生きていくためには、法的な代理制度である成年後見制度の積極的利用が不可欠になっている。しかし、成 年後見制度が知的障害者の利益になるような形で社会に受けいられていくためには、知的障害者の福祉に係る私たちが、知的障害者にとって、「成年後見制度がなぜ必要なの か」、「成年後見制度の何を期待し、制度は何を担えるのか」、「その為に必要な理念とは何か」をしっかりと問うことから始めなくてはならないと思われる。」
知的障害者が抱える問題点
「1.知的障害者は、知的機能の障害が発達期にすでに見られ、日常生活に支障があり、特別な援助を必要とする状態が継続しており、長期間にわたって何らかの支援が必要で あこと。2.その支援については、認知症高齢者のように「今まで生きてきたように、最後の数年間を援助する」ことが、その人の自己決定であろうと「推定」することができ ないこと。3.法的にいえば、20歳で親権から抜けた後、措置制度もなくなった現在においても、何らかの法的保護が必要であることに変わりはないこと。4.これまで親が子 の一生を抱え込んで、全責任を負ってきた現実があり、本人が自分の人生を決定していく経験がないこと。」
認知が不正確で抽象的な概念がもちにくく、先の見通しが立てにくい障害の特性から、周囲の人たちの不適切な関わりによって培われる、自己の障害に対して適切な認識をもてず、自己否定感を持ちやすい障害者にとっての杖は「人」であることへの必要な配慮とは何か、現在に至るまでの経緯や背景などがまとめられています。
親亡き後の問題として、障害者本人にとっては、従順であること、愛される障害者であることを期待され続けて、選ぶことの経験も乏しく、いやと言えない生活を強いられ 、嫌やを諦める状況で生きてきて、リスクを伴う自己決定は一番難しいテーマです。
「親に代わる知的障害者の人生の伴走者としての成年後見制度」を「知的障害者のベストインタレスト(最善の利益)の実現のためには、法律学、社会福祉学に止まらず、 広く哲学や倫理学などの社会科学諸分野で積み重ねられきた多くの知見を踏まえ、障害者のおかれた現状や、現代社会の現状をもしっかりととらえおく必要がある」、「利用 者にとって有益であるためには、基本的な価値と方向性を明確にしておく必要があり、決して表層的な理解に止めてはならない」との著者の問題意識を、「知的障害者の成年 後見について、その背景となる原理の考察を重ねてきた。ここで考察したことは、ある一つの結論を出すことではなく、結論を導くための叩き台となるであろう、あるいはそ う期待したキーワードを探ったものである」とエピローグに記されいる通りに進行していく書籍です。巻末の参考文献は600以上が一覧に記載されいます。この本は哲学書 であり批評書です。


